怒りも苛立ちも、しょせんは妄想でしかないのかもしれない。

先日、オリジナルメンバーが復活したガンズ・アンド・ローゼスのライブに行ってきた。

「暴君」アクセル・ローズに加え、オリジナルメンバーであるスラッシュとダフ・マッケイガンが揃い踏み。イジー・ストラドリンの不在は残念だったけど、ひっそりとバンドに居続けるディジー・リードも健在だ。

僕自身、高校生の時にガンズを聴きまくっていたにも関わらずライブ参戦は初めてだったため、否が応でも当日への期待は高まっていた。

会場であるさいたまスーパーアリーナ、僕の席はアリーナの中ほどからやや後方といったところ。ステージまでの距離はあったけど、中央の通路に面していたので視界は良好、のはずだった。自分の席を見つけた次の瞬間、なにやら不穏な空気を感じずにはいられなかった。

僕の席のすぐ前には、40代半ば〜後半の男性4人が座っており、見るとジャックダニエルのボトルを回し飲みしている。まだライブ開始前なのに「うえぇぇぇい!!」「アクセルー!!」「イジー!!(不在です)」などと大きな咆哮を発しているではないか。うん、嫌な予感しかしない…。前座のMAN WITH A MISSONが終わり、どうやらガンズのスタートが例によって遅れている状況が明らかになると「こっちゃ新幹線の時間があるんだぞー!!」と叫んでみたり。

僕の嫌な予感が外れるわけもなく、ガンズのライブが始まった途端、4人が4人とも中央通路に躍り出て、体全身で見事な躍動感を発揮しはじめた。僕も必死にライブを楽しもうとしつつも、意識の半分は自然と彼らに向かってしまっていた。そう、僕は完全にいらついていた。

そのうち僕の身体に危害を加えられるのではないか。その反動で殴られたりするのではないか。せっかく待ちに待ったガンズのライブなのに。会場スタッフのお兄さんの優しい注意は完全に無視しているし、僕以外の人々も心なしか眉をひそめているように見える。ちょっと怖いけど注意してみようか。いやでも注意することでメンドクサイことになってもな…。

さまざまなネガティブ感情が渦巻き、いい加減どうにかなってしまうかもしれないと思いはじめた頃、ひとつ気づいたことがあった。それは1曲終わるごとに、彼らが口々に「最高だー!!」「かっこいいー!!」「いいねー!!」などと叫んでいたことだ。その表情は(酔っ払っているとはいえ)これ以上ない喜びに満ちていた。

当たり前のことだけど、この会場に足を運んでいる時点で(それもどこか遠くから新幹線に乗って)、彼らも僕と同じく、かつてガンズに熱狂していた熱心なファンなのだと言える。24年ぶりのオリジナルメンバーを揃えての来日公演に、心を踊らせていた人たちなのだ。そして生のガンズを目の前にして、その喜びを全身で爆発させているだけなのだ。実際、僕に危害が加わることも、どうやらないらしい。

「この人たち、ほんとにガンズが好きなんだな…」そう思えた瞬間、僕の中に渦巻いていたネガティブ感情はすっと消え去り、僕も彼らに負けないようにもっと楽しもうという気持ちが芽生えた。

このライブの中で、僕の気持ちはネガティブからややポジティブなものへと変遷があったわけだが、彼らの行動は一貫して乱痴気なものだった。つまり、せっかくのライブなのに酔っ払いが目の前で暴れているという事実に対して、どのような気持ちを持つかは自分次第なのだと言える。僕の苛立ちも、許しの気持ちも、もっと楽しみたいという感情も、すべて僕が自分で生み出したものなのだ。

怒りも苛立ちも、しょせんは自分が作り出したものなのだから、それを自分でコントロールすることだってできる。ネガティブな感情は、しょせんはただの妄想でしかないのかもしれない。

およそ2時間半に及んだこの日のガンズ・アンド・ローゼスのライブでは、僕が聴きたいと思っていたほとんどすべての曲を聴くことができた。アクセルとスラッシュの体型にまつわるいろいろもあるけれど、終わってみれば大満足の本当に楽しい時間となった。ついでに終わったあとに飲んだビールも最高に美味しかった。

帰路につく僕の頭には、彼らの存在はもう残ってすらいなかった。