雪が降るっていうから

午後から雪になるだろう。そんな予報を目にして家を出た。

なるほど、時間が経つにつれて空が暗くなっていく。風もずいぶんと冷たい。

今日の帰りは大変だろうな。いや、明日の通勤こそ、きっと骨が折れるだろう。
そんなことを漠然と思いつつも雪が降る、そのことに対する心の準備はできた。

…なんだ、雨じゃん。

夜になり、会社を出てみると、すごく寒いくせに、雪ではなく雨が音もなく降り注いでいた。

そして気づいた。
「おれ、がっかりしてる…」

そう、僕は心のどこかで雪が降ることを期待していたのだ。たまらなく楽しみにしていたのだ。

それはちょうど、まことに不謹慎ながら、近づいてくる台風になぜかワクワクしてしまう感情に近いような気がする。

いつから大人になったのか知らないけど、大人というものになってから雪が降ることをメリットに感じたことはない。
普段の何倍も移動が大変になるし、服装など、それなりの準備も必要だ。
できれば降らないでいただきたい、それが素直な感情だろう。

でも、そんな損得勘定を抜きにして、僕は雪が降ることを楽しみにしていた。

いや待てよ、本当に楽しみにしていたのは、非日常の時間なのかもしれない。

街中が白く染まり、しんと静まり返った家々の軒先には小さな雪だるまが登場する…。
そんな、東京では年に数回しかない非日常の時間を、僕はきっと楽しみにしていたのだ。

雨は、相変わらず降り続いている。
明日の朝にはもしかして、と期待している僕がいる。