怒りの感情を抱いたら、その人に手紙を書いてみる。

 

詳細までは触れないけれど、僕は数年前、とある人物に対して、かつてないほどの怒りを覚えたことがある。

 

僕の尊厳を著しく傷つけられたというか、僕が歳月をかけて築き上げてきたものを侮辱するような行為をその人物が行った、と思えたためだ。

普段あまり怒らないタイプと自己分析していただけに、自分でも驚いてしまうくらい、そのときの怒りは強いものだった。

直接会って強く抗議しようか、僕が受けた被害と同じように相手が大切にしているものを破壊してやろうか、それとも…。とにかく相手に対して、何かしらの反撃を行わなければ気が済まないと思った。

 

強烈に怒っているとは言え、基本的にヘタレな僕が選んだ手段は「メールで抗議する」というものであった。今思うと、なるべくエネルギーを使わない方法を選ぶあたりは実に僕らしい。

あなたの言葉や行動によって、僕はこんなにも不愉快な気分になっている。あなたの行為は人の尊厳を傷つけるものだし、最低のものである。二度とやってくれるな。二度と連絡してくれるな。そんな調子で、事細かに、心に溜まったものをすべてそのメールにぶちまけた。

 

コピーライターらしくしっかりと推敲し、あとは送信ボタンを押すだけの段階になったとき、心境が変化していることに気付く。

 

「あれ、もうどうでもいいな…」

 

あれほど強く怒りを抱えていたのに、その怒りをメールの文章にすべて集約したとたん、心が驚くほど静まり返っていたのだ。

 

きっと頭や心に溜め込んだネガティブな感情は、ぶつかりあって反響し共鳴し、時間とともに強さを増していくものなのだろう。だから文章というかたちで、身体から外へと解放するといいのかもしれない。

 

このときの僕のように、怒りのすべてをぶつけた文章を読み返すことで、自分の感情に対して客観的になることができる。冷静な思考を持って、自分自身と接することができる。そして心を乱していた真の要因は何か、どう対処することがベストなのかを判断することができる。

 

結局、僕は送信ボタンを押すことなく、そのときの判断で最善と思われる手段を選ぶことができた。「徹底的に相手にしない」という、これまた僕らしくエネルギーを使わない方法で。