村上春樹さんへの片思い
村上春樹さんの最新刊「騎士団長殺し」が売れているらしい。
僕はハルキストとしての自負はこれっぽっちもないのだけれど、学生時代から村上さんの長編小説は欠かさず読んできたと思う。
「ノルウェイの森」はたぶん通算で5回くらいは読んでいるし、賛否はあったと思うけれど映画もきちんと観た。海外旅行に「ねじまき鳥クロニクル」を持っていき、観光などそっちのけで読みふけっていたこともある(当然「何をしにきたんだ」と友人に言われる始末)。前作の「1Q84」も相変わらず面白いと思ったし、でもやっぱり「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の世界観が好きかなとか、いろいろ語れる部分はあると思う。
僕は村上さんの作品に対しては、ストーリーの良さや完結性を求めてはいない。実際「え、コレで終わりなの?」と思ってしまうような唐突に訪れるエンディングもあるから、きっとこのあたりが、ハマる人とそうでない人を選別しているのではないかと勝手に思っている。村上さんの作品の良さは「空気感」かな、と思う。独特の言葉の選び方や比喩によって、村上作品ならではの空気が作品全体に流れている。それを味わうように読み進めるのが、僕はたまらなく好きだ。このような楽しみ方ができる作家は僕にとっては貴重だとすら思う。
そんな村上さんの最新刊が出た。でも、僕はまだ読んでもいないし、買ってすらいない。買う予定も今のところない。
「騎士団長殺し」が書籍ランキングで上位にいたり、本屋さんの目立つ場所に山積みになっていたり、SNSのタイムラインで「買いました」ポストを見ているうちに、なんだか妙な気分になってきたのだ。
そんな現実をちょっと冷めた目で見はじめてしまい、すこし村上作品から距離をおきたくなってしまった。
これはたぶん、密かに想いを寄せていた女の子に対して、実はタケシ君もコータ君もアキラ君も同じように好意を寄せていると知ったときの気持ちに近いかもしれない。
あるいは、人気はないけど自分だけが好きだと思いこんでいたロックバンドが、徐々に売れはじめてしまったときの気持ちに似ているかもしれない。
そう、これはつまり、僕の一方的でワガママな片思いなのである。
人々が村上さんの作品に熱狂すればするほど、メディアが声高に喧伝すればするほど、僕の心は村上さんから離れていく。村上さんが好きがゆえの、偏屈で天邪鬼な感情なのだ。
この偏屈な恋煩いが、いつ終わるのかはわからない。
「騎士団長殺し」のKindle版が出た途端に読み始めるかもしれないし、5年後くらいに思い出したように読み始めるかもしれない。いや、もしかしたら明日には気が変わって本屋さんで手に取っているかもしれない。
とにかくコレを書いている現段階では、僕の恋心は穏やかではない。細かい能書き垂れないで、さっさと読んでしまえればどんなに楽なことか…