京王バス内での素敵な一幕から、企業ブランドについて思い巡らせてみる。
先日乗っていた京王バスの中で、とても心あたたまる一幕があった。
僕は窓際の一人席に座っていたのだが、通路を挟んで反対側の横並び席に、おそらく3歳くらいの男の子がおばあちゃんに連れられて座っていた。男の子は上機嫌で、ニコニコとおばあちゃんと話をしていた。
僕は何かを思いながら窓の外をぼんやりと眺めていたのだけど、気づいたらその男の子が泣きじゃくっているではないか。さっきまであんなに上機嫌だったのに、なぜだろう。
これは後に理解したことだが、どうやら男の子とおばあちゃんが降りる停留所に近づいたため、男の子が降車ボタンを押そうとしたらしい。僕もふたりの息子を持つ父親の端くれとして理解できるのだけど、男の子とはとにかくバスの降車ボタンを押すことに命をかけたがる生き物だ。ところがその大事な降車ボタンを、一足先に他の乗客に押されてしまった。ボクが押したかったのに、ボクが車内に響きわたるピンポーンを起動したかったのにむきー!というのがコトの発端らしい。
男の子の泣き声はバス内にこだましたのだが、どうせ彼は次の停留所で降りる身、乗客の我慢もほんの数分足らずのものだ。きっと乗客の誰もが、泣き声に耐えきる姿勢をとりはじめていただろう。
ところが、である。
その場の空気を一変させたのは運転手さんだった。運転手さんは一度押された降車のサインをキャンセルし、マイクを通じて男の子を促した。「はいボク、押してくださいね」
言うまでもなく男の子は一瞬で泣き止み、あわてて降車ボタンを押す。車内にピンポーン!が鳴り響く。そして元のようにニコニコで降りていく男の子と、ありがとうございますを繰り返しながら彼を追うおばあちゃんの姿があった。
この間、きっと僕の目は通常の2倍くらいの大きさになっていただろう。正直、度肝を抜かれてしまった。こんな対応ってあるんだな。
なんとなくだけど、今回の運転手さんの対応はマニュアルに載っているものではなく、あくまでも個人的な、優しさから生まれたものであったと想像できる。だけどこの瞬時の対応によって、小さな男の子と彼を連れたおばあちゃんを京王バスのファンにすることができたのではないか。また乗り合わせた人々にも同様に、ポジティブな印象を植え付けることができただろう。少なくとも僕はこの一部始終を目の当たりにして、ちょっと京王バスが好きになってしまったわけで。
企業イメージやブランド向上に悩む企業があるのであれば、僕が見た京王バスの運転手さんの対応を参考にしてみるのも良い。ブランド戦略も、結局は人ありきのものなのかもしれない。